第4回 新規事業のテーマ探索が難しい理由の本質

新規事業のテーマ探しとは、以前のブログに書いたように「顧客」、「商品・サービス」、「売り方」という事業の基本3要素の組み合わせを見つけることです。ところで、「新規事業のテーマ探しは難しい」という声をよく聞くきますが、これは、上記した3つの要素の組み合わせを見つけることが難しいことを表しています。では、何故この組み合わせを見つけることが難しいのでしょうか。それは、以下の理由によります。

●各々の要素の変数が無限なため

まず、顧客ですが、どの顧客をターゲットにするかという顧客の選択肢は無限にあります。また、どのような商品やサービスを開発したらよいかという選択肢も、これから考えようとしているので無限にあります。顧客と商品・サービスが決まらなければ売り方も決まるわけがなく、当然選択肢は無限となります。

各々の要素の選択肢が無限にあるため、どこかの要素を特定化しないと他の要素は決まりません。しかし、どこからどのように要素を特定したいったらよいかは簡単ではなく、そのため、テーマ探しは難しくなってしまうのです。このことは新規事業のテーマ探しの本質的特性と言って間違いありません。

なお、各々の要素に無限の選択肢がある中で、「どの要素から、どのように特定化していくか」が難しいのですが、どの要素から特定化していくかによって、探索のアプローチが変わることになります。すなわち、新規事業のテーマ探しの方法がいくつか存在しているのは、どの要素から特定化していくかという「要素の特定の順序」が異なることに起因しているのです。

第3回 新規事業のテーマ探しって何をすればいいの?(2)

前回、流しのコーヒー事業を例に、「顧客」「商品・サービス」「売り方」の3つが事業の基本構成要素になっていることを書きました。 実は、この流しのコーヒー事業には、後日談があります。

流しのコーヒー販売のスタイルは、豆や挽き方、水のこだわり等があったこともあり、“おいしい”と評判になり順調に売り上げを伸ばしていきました。そして、ついに店舗を持つようになったのです。すなわち、無店舗販売から店舗販売に売り方が変化したのです。

店舗を持ってしまうと普通の業態になってしまうのですが、豆はもちろんのこと、豆の挽き方、フィルターの種類(紙か布かなど)、淹れ方(サイフォンかドリップかなど)各々の要素においてバリエーションを持ち、それらを顧客に選択してもらうという売り方をすることでこだわりをアピールし、コーヒー通の人達を安定顧客として獲得していったのです。また、このA氏はイケ面であるという付加価値もあり(この付加価値は大きいのかもしれませんが)、カウンター席は、常連の女子達がシェアすることも多くなっていきました。このようにコーヒー店としてはやや尖がった存在となっていったのです。

しかし、コーヒーにこだわるため、コーヒーしか頭になく、当然コーヒーしか販売していませんでした。ところが、そこにスコーンしか頭になく、スコーンしか製造販売していない尖がったスコーン店から「ウチのスコーンをメニュー加えて、コーヒーとセットで販売してもらえませんか」という提案があったのです。こだわりのコーヒー店は、その提案を喜んで受け入れました。

コーヒー店としては付加価値メニューが増え、スコーン好きの顧客も来店するようになり、小さな発展へとつながっていったのです。

この時点になると、事業の基本要素は次にようになっています。

顧客:コーヒー通、及びスコーン好きの人

商品・サービス:こだわりのおいしいコーヒー、及びこだわりのおいしいスコーン

売り方:店舗での販売

 基本の3要素の組み合わせを少しずつ変化させながら、売上を伸ばしていったことになります。

 上記例に限らず多くの事業は、基本の3要素の組み合わせを少しずつ変化させながら進化し、そして売上を伸ばしていると思われます。

第2回 新規事業のテーマ探しって何をすればいいの?(1)

第2回 新規事業のテーマ探しって何をすればいいの?(1)

「新規事業のテーマ探しとは何をすることか」とは何をすることか」と問われたら、「顧客の特定のセグメントのニーズを発掘し、そのニーズを満たす商品・サービスを考えると共に、売り方を考えていくこと」と答えます。すなわち、「顧客」、「商品・サービス」、「売り方」の組み合わせを見つけることが、新規事業のテーマ探しということです。少し言い方を変えると「“誰に”、“何を”、“どのように”の組み合わせを見つけていくこと」になります。

なお、私は「顧客」、「商品・サービス」、「売り方」を“事業の基本3要素”と呼んでいます。では、この事業の基本3要素の組み合わせはどのようにつくられていくのでしょうか。その流れを、ユニークなコーヒーショップの例で分かりやすく説明してみます。

コーヒーを煎れることが得意であり、この知識と技術を利用して商売ができないかと考えた人がいました(以後、コーヒー職人A氏と呼びます)。コーヒー職人A氏が住んでいる近所は、飲食店がたくさん並ぶ繁華街がありましたが、A氏はある時、次のことを知りました。

「お酒を飲んだ締めにお茶漬けを食べるが、さらにその後にコーヒーを飲みたいという人がいる」。すなわち、繁華街には「お酒を飲んだ後の締めにコーヒーを飲みたい」という潜在ユーザーが意外に多いことに気づいたのです。

おいしいコーヒーは煎れることに自信があったA氏は、「お酒を飲んだ後の締めのコーヒー」を売ろうと考えたのです。しかし、ここでちょっとした不安が出てきました。それは、自分のおいしいコーヒーを“どのように売るか”ということについてはアイデアがなかったことです。

普通に考えれば店舗をつくるということになるのですが、店舗つくった場合「酔った人達なのでわざわざ遠回りしてまで来店してくれるのか」、「そもそも出店する資金がない」などの不安がよぎり、なかなか良いアイデアが浮かびません。

では、どうしたか。コーヒー職人A氏は、「それならば、こちらから飲食店に出向いて販売しよう」と考え、“流しのコーヒー屋”というスタイルで販売することにしたのです。そして、実際に居酒屋や小料理店に飛び込み、コーヒーを販売していったのです。この流しのコーヒー販売は次第に常連さんが増え、飛び込み販売するだけでなく顧客からお呼びがかかるようになり、これにより受注の効率は格段に高くなっていったでした。

この事例は、規模は小さいですが新しい事業には変わりはありません。

この流しのコーヒー屋の事業は、事業の基本3要素で整理すると次のようです。

・顧客:お酒を飲んだ後の締めとしてコーヒーを飲みたい人

・商品・サービス:挽き立てに近いこだわりのコーヒー

・売り方:訪問型の流しの販売スタイル

この事業は、上記3つの要素の組み合わせでできていることが理解できます。

「新規事業のプロセス」ブログを開始しました

第1回 はじめに

「新規事業開発は難しい」という人は多いですが、新規事業開発に長く関わっている人ほど、その言葉には実感がこもっているように感じます。

私は石油業界から社会人生活を始めましたが、諸々の事情により新規事業開発のコンサルタントの道に進み、その後部品メーカーにて新規事業の携わり、次にソフトウェアベンチャーを経験するという道のりを経て、現在のリーディング・イノベーションに至っています。新規事業との関わりは30年以上になりますが、今も新しい経験をするたびに難しさを感じると共に、少しずつの進化を感じています。

しかし、一方では「わくわく感」も感じています。今考えている商品を「笑顔で使っている人のシーン」を思い浮かべるだけで楽しくなります。いわゆる妄想ですが、現実に使われてくれば「少しは役だったかな」という充実感も出てきます。 新しいことを考え、生み出していく作業は、本来楽しいことです。

 わくわく感を感じながら価値の高いテーマを発掘していくには、「新規事業のプロセス」にこだわることが重要と思います。そして、30年にわたってこのプロセスにこだわり活動をしてきました。その思いとノウハウをお伝えしたくブログのタイトルを「新規事業のプロセス」としました。読者の方々の頭の整理や意欲の向上につながれば幸いです。